そして、学校は戦場になった──

クリスタルチェリー 愛する君へ

原作:竹内葵 カバーイラスト:内田美奈子
A6 文庫本 p400 ¥790(Taxin)



ワタシタチガナニヲシタ──?
国家からテロリストと断定され、軍の攻撃に抗う8人の少女たちが、最後に残すメッセージとは?

校舎の窓の外に、突如として出現した軍用ヘリ。
機銃の照準は生徒たちにロックされた。
未来から運び込まれたロボット兵器を巡る攻防も激化し、“戦場”における人間の正常な感覚は、もはや跡形もなく吹き飛んだ。
果たしてこの物語に未来はあるのか?
“戦争”の行く末にあるものは、絶望だけなのか?
少女たちの想いを残し、世界は破滅へと向かってゆく──

<目次>
序章……襲撃
一章……逃走
二章……事の始まり
三章……空白の夏休み
四章……友の死
終章……破壊神

<ストーリー>
 桜木萌は、聖クリスタル学園中等部二年生。一つ下の妹、桃と一緒にこの春、転入してきた。
 両親は仕事で海外に赴任、祖父が二人の面倒を見ている。と言っても、山中にある祖父の家から学園までの通学時間は4時間。やむなく祖父は、二人を学園近くの貸家に住まわせる。
 萌には、仲良しになったクラスメートが三人いる。三枝南と美杉真依、それに相原千都世だ。
 南は男の子ような性格で、自らを“ボク”と呼ぶ。正義感に溢れていて、ヤンキー三人を一撃で倒したこともある、プロレス技の得意な自称、格闘家だ。
 真依は、その南の親友。出会いはヤンキーに襲われた時で、ヒーローのように登場してヤンキーを打ち倒した“情け容赦ない”南の暴れっぷりに、一時は恐怖して逃げ出したこともある。が、彼女も負けん気の強い性格で、いつしか二人はお互いを庇い合う良きパートナーとなっていった。
 千都世は、お嬢様育ちではあるが、両親と死別するという不幸な家庭の事情で、一人暮らしを余儀なくされている。七つ年上の真一という兄がいるが、彼は高校を卒業すると同時に自衛官に志願し、兄妹の生活を支えている。
 そして彼女は、その家庭環境から空想僻のある“夢見る少女”となった。いつか“白馬の王子様”が現れて、この現実から自分を救ってくれると頑に信じていた。それ故、引き蘢りがちの暗い少女との印象が強いが、成り行き上、真依の子分のような立場に立たされている。

 そんなクラスメートとともに楽しい学園生活を送る萌に、夏休み前日の終業式の七月二十日、常識では考えられない事件が起こった。突然、教室の外に軍用ヘリコプターが出現して、銃撃を受けたのである。さらに驚くべきことに、南と真依がサブマシンガンで応戦するという非常事態となった。
 その光景は、萌を恐怖のどん底へと叩き込んだ。自分達は只の学生の筈なのに、たった今まで平和な日常だった筈なのに、一体、何が起きているのか──そう考える間もなく、妹の桃がヘリコプターをロケットランチャーで撃ち落とし、萌のパニック状態は頂点に。
 そして、学内での“見えない敵”との戦闘。その相手とは、同じ学園の高等部の生徒、観月涼、増田美冬、藤川夕香里の三人だった。
 結局はお互いを知らずの誤った戦闘ではあったが、学園を裏で操ると噂される涼達の出現に、萌はここでも恐怖に身を震わせた。
 涼は地元暴力団の組長の娘だったし、美冬はその従姉妹、夕香里はその仲間としてつるんでいたから、学園の生徒だったら、三人は誰もが恐れる存在だった。
 彼女達に逆らった教師が処刑されるという話も、日常茶飯事のように囁かれる。涼がサブマシンガン、美冬が日本刀、夕香里がサバイバルナイフで武装する姿が、それに輪を掛けた。
 そのため、同じ学園の生徒にもかかわらず、二つのグループは対峙する格好となったが、束の間、戦車の砲撃を受けて一緒に行動することになった。
 八名が逃げ込んだのは、学園の地下にある倉庫のようにだだ広い地下室。その扉を前にして、萌は美冬の口から今日は9月20日であると聞かされる。自分にはこの二ヶ月間の、夏休みの間の記憶がないことを知って、萌は愕然とする。
 まさか、自分は気が違ってしまったのではないか──苦悩する萌。しかし、その間もなく、彼女達は扉の向こうに魚眼の巨大ロボットを発見する。
 次から次へと起こる非日常的な出来事に、萌は錯乱するばかりだったが、一つだけ彼女にも理解できることがあった。今朝のまだ何ごとも起きていないあの時間には、もう決して戻れないということを──

 地下室に立て籠る格好となった八名だったが、ここで彼女達の口から除々に、萌の記憶を埋めるための事実が明かされていくことになる。
 事の発端は9月19日、昨日の始業式でのこと。緊急と称して体育館に集められた生徒達の目の前で、自衛官が発砲するという事件が起きた。何故自衛官が? と考える隙もなく、武装した自衛軍兵士達による集団身体検査が始まる。何かを探している様子だったが、狼狽える教師達を含め、もはや暴行とも言える取り調べが進む中、テロリストととして10数名の生徒の名が挙げられる。その中に桜木もえ、三枝南、美杉真依、観月涼、増田美冬、藤川夕香里の六名の名前があった。
 しかし、その日、萌は登校していないという事実が判明。残った南達、涼達のグループはそれぞれ中等部、高等部に別れて教室内に拘束されるが、そこでも悲劇が起こった。
 深夜になって起きた兵士の発砲による生徒の死傷、それに突如、反乱を起こした兵士との銃撃戦が始まって、教室内は惨劇の場となった。血飛沫を浴びて気絶する生徒達。頭を吹き飛ばされ、絶命した者が骸となって床に転がり、教室は血に染まった。
 結果は、犠牲者を出したものの、反乱兵の勝利に終わった。この場に残ったのは彼等と、かろうじて生き長らえることの出来た数人の生徒達だけだった。別々の教室ではあったが、涼達、そして南達のグループは九死に一生を得た。しかし、そこで意外な言葉を反乱兵から聞く五人。
 死にたくなければ武器をとって戦え──
 彼等の説明によると、つい一週間程前、政府のある研究施設が何者かに襲撃された。その際、研究データの一切が抹消され、更に機密とされる実験体が持ち去られた。それを政府は必死になって捜している。そして、持ち出された実験体がこの聖クリスタル学園に運び込まれたことが判明。その犯人がテロリストと名指しされた、涼達であり、さらに主犯格は萌であると政府のコンピュータが断定した。
 その理由はここでは明確にされなかったが、暫くして音楽室に監禁されていた担任の持丸貴志が南達の前に現れた。やはりそこでも拷問が行なわれ、生き残ったのは彼だけだと言う。持丸は言った。理由も知らされずに死んでいくわけにはいかない。だから、僕達は戦わなければならない──と。
 好むと好まざるとにかかわらず、すべてが戦いの方向へと向かっているようだった。しかし、当の一方、桜木萌はその時どこで何をしていたのか?
 そのことは妹の桃の口から語られることになった。体育館から拉致監禁された十数名を除く生徒達は皆、一時解放された。桃は重要参考人として自宅に監禁された。
 この事件の中心に姉がいる、その姉に危険が迫っている。恐れおののき、眠れぬ夜を過ごす桃の前に、ついに姉の萌が姿を現す。桃を監禁していた兵士達はいつの間にか姿を消している。
 そして、最初に萌の口をついて出た言葉は、間に合わなかった……という意味不明のものだった。いつもと違う、憔悴しきった様子の姉の姿に、桃の不安はいっそう駆り立てられる。
 私達は戦わなければならない、だから、あなたの命を私に預けて──その時、萌は確かにそう言った。思わぬ姉の決意を前に、全身に緊張を走らせる妹。そして、ここに至るまでの経緯が、姉の口から解き明かされる。
 それは7月20日、終業式を終えた萌が、マコトと名乗る男と出会ったことから始まったという……

 妹の話に出て来る萌は、確固たる意志のもと、戦いに臨もうとしていた。しかし、現実にこの地下室にいる彼女には、その時の記憶さえまったくない。その謎を解く間もなく、自衛軍による校舎への攻撃が始まった。
 そして最初の犠牲者、相原ちとせが、自衛官である兄、真一の銃弾によって倒れるところから、彼女たちの絶望的とも言える悲劇が幕を開けることになる。
 ついに、自衛軍攻撃部隊による学園への空爆が始まった──


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